はじめに
日常のコミュニケーションにおいて、私たちは無意識のうちに相手を不快にさせる言葉を使ってしまうことがあります。本人に悪気がなくても、言葉の選び方一つで相手との関係性に影響を与えてしまうのです。
PRESIDENTとPRESIDENT ウーマンの各オンライン読者約3000人へのアンケートでは、仕事の場面においてマナーは必要だと回答した人は99.5%に上りました。さらに、他人のマナー違反が気になることがあると答えた人は81.9%に達しており、多くの人がコミュニケーションにおける言葉遣いやマナーを重視していることがわかります。
本記事では、ビジネスシーンや日常生活で避けるべき言葉遣いと、その改善方法について解説します。
調査から見える言葉遣いの重要性
マナーは多くの人が必要としている
「仕事の場面において、マナーは必要だ」と回答した人は99.5%という結果から、ほぼすべてのビジネスパーソンが適切なコミュニケーションを重視していることが明らかです。
しかし同時に、他人のマナー違反が気になると答えた人が81.9%いるという事実は、多くの人が知らず知らずのうちにマナー違反をしている、または周囲でマナー違反を目にしているということを示しています。
年齢やキャリアは関係ない
年齢やキャリアを重ねた管理職の中にも、挨拶や敬語などが正しくできない人がいることがわかりました。つまり、言葉遣いの問題は新入社員や若手だけの問題ではなく、すべてのビジネスパーソンが意識すべき課題なのです。
避けるべき言葉遣い:否定的な言葉
1. 「でも」「だって」「しかし」
相手の話を受けてすぐに「でも」「だって」「しかし」といった逆接の接続詞を使うと、相手は自分の意見を否定されたように感じます。
なぜ避けるべきか
- 相手の話を聞いていない印象を与える
- 議論が対立構造になりやすい
- 相手の気持ちを否定したように感じられる
改善例
- 悪い例:「でも、それは違うと思います」
- 良い例:「なるほど、そういう考え方もありますね。私は〜という点も考慮できるかと思ったのですが、いかがでしょうか」
2. 「は?」「はぁ?」
聞き返すときに使う「は?」「はぁ?」は、相手に威圧感や不快感を与える代表的な言葉です。
なぜ避けるべきか
- 攻撃的な印象を与える
- 相手を見下しているように感じられる
- ビジネスシーンでは完全にNG
改善例
- 悪い例:「は?何ですか?」
- 良い例:「申し訳ございません、もう一度お聞きしてもよろしいでしょうか」
3. 「それで?」「だから?」
相手の話に対して「それで?」「だから?」と返すと、話の内容を軽視しているように受け取られます。
なぜ避けるべきか
- 相手の話に興味がないように見える
- 威圧的な印象を与える
- 相手を急かしているように感じられる
改善例
- 悪い例:「それで?結論は?」
- 良い例:「興味深いお話ですね。その結果、どうなったのですか?」
4. 「はいはい」
返事を二回繰り返す「はいはい」は、投げやりな印象や生意気な態度を示してしまいます。
なぜ避けるべきか
- やる気がないように見える
- 相手を馬鹿にしているように感じられる
- 真剣に聞いていない印象を与える
改善例
- 悪い例:「はいはい、わかりました」
- 良い例:「はい、承知いたしました」
避けるべき言葉遣い:不適切な敬語
よくある二重敬語の間違い
よくやりがちな二重敬語としては「拝見させていただく」「ご覧になられましたでしょうか?」「伺わせていただきます」などがあります。
主な二重敬語とその正しい表現
| 間違った表現 | 正しい表現 |
|---|---|
| 拝見させていただく | 拝見します |
| ご覧になられましたでしょうか | ご覧になりましたか |
| 伺わせていただきます | 伺います |
| おっしゃられる | おっしゃる |
| お召し上がりになられる | 召し上がる |
身内に敬語を使う間違い
クライアントが電話口で、自分の上司に敬称をつけていたり、「部長が○○してくださったので」などと発言したりするケースがあります。
なぜ避けるべきか
- 社外の人に対して身内を立てるのはマナー違反
- ビジネスマナーの基本ができていない印象を与える
- 取引先からの信頼を損なう可能性がある
改善例
- 悪い例:「部長の山田がおっしゃっていました」
- 良い例:「部長の山田が申しておりました」
過剰な丁寧語
丁寧にしようとするあまり、不自然な敬語になることもあります。
避けるべき表現
- 「お名前を頂戴できますでしょうか」→「お名前をお伺いできますか」
- 「資料のほう」→「資料」(「ほう」は不要)
- 「〜になります」の多用→「〜です」「〜でございます」
避けるべき言葉遣い:ネガティブな言葉
1. 「無理」「できない」
最初から「無理」「できない」と断定する言葉は、やる気がないように見えます。
改善例
- 悪い例:「それは無理です」
- 良い例:「難しい面もありますが、〜という方法なら可能かもしれません」
2. 「忙しい」「時間がない」
「忙しい」「時間がない」を口癖のように言うと、周囲は頼みづらくなります。
改善例
- 悪い例:「忙しくて無理です」
- 良い例:「現在の業務との兼ね合いで、〜日以降なら対応できますが、いかがでしょうか」
3. 「疲れた」「めんどくさい」
職場でネガティブな感情をストレートに表現すると、周囲の雰囲気も悪くなります。
改善例
- 悪い例:「疲れた、もう帰りたい」
- 良い例:心の中で思うだけにして、口に出さない
4. 「ウザい」「キモい」
若者言葉や俗語は、ビジネスシーンでは完全にNGです。
なぜ避けるべきか
- 幼稚な印象を与える
- 相手を傷つける可能性が高い
- プロフェッショナルとしての信頼を失う
避けるべき言葉遣い:曖昧な表現
1. 「多分」「たぶん」
仕事の場面で「多分」「たぶん」を多用すると、責任感がないように見えます。
改善例
- 悪い例:「多分、明日までにできると思います」
- 良い例:「明日の17時までに完成させます」
2. 「一応」
「一応」は、自信のなさや中途半端な印象を与えます。
改善例
- 悪い例:「一応、確認しておきました」
- 良い例:「確認いたしました」
3. 「〜かもしれません」の多用
可能性を示す表現も、多用すると優柔不断に見えます。
使い分けのポイント
- 確実なこと:断定表現を使う
- 不確実なこと:「〜の可能性があります」と明確に伝える
- 提案:「〜してはいかがでしょうか」
避けるべき言葉遣い:自己卑下の言葉
「どうせ私なんて」
過度な自己卑下は、周囲を困らせます。
なぜ避けるべきか
- 相手が励まさなければならない状況を作る
- 自信のなさが仕事のパフォーマンスに影響
- 謙遜と自己卑下は違う
改善例
- 悪い例:「どうせ私なんて、大したことできませんから」
- 良い例:「まだ経験は浅いですが、精一杯取り組みます」
「すみません」の多用
日本人は謝罪の言葉を使いがちですが、必要以上の「すみません」は自信のなさの表れです。
使い分けのポイント
- 謝罪が必要な場面:「申し訳ございません」
- 感謝を伝える場面:「ありがとうございます」
- 声をかける場面:「恐れ入ります」「お忙しいところ」
好印象を与える言葉遣い
避けるべき言葉遣いを理解したら、次は好印象を与える言葉を積極的に使いましょう。
1. 感謝の言葉
「ありがとうございます」
- シンプルだが最も効果的
- 具体的に何に感謝しているか伝えるとより良い
- 例:「資料を準備していただき、ありがとうございます」
「助かります」
- 相手の行動が自分にとって価値があることを伝える
- 例:「早めに教えていただけると、助かります」
2. 肯定的な言葉
「いいですね」「素晴らしいですね」
- 相手のアイデアや意見を肯定する
- 会議や議論の雰囲気を良くする
「なるほど」
- 相手の話を理解していることを示す
- ただし、目上の人には「おっしゃる通りです」の方が適切
3. 前向きな言葉
「やってみます」「挑戦します」
- ポジティブな姿勢を示す
- 周囲にも良い影響を与える
「勉強になります」
- 学ぶ姿勢を示す
- 相手を立てることもできる
4. 配慮を示す言葉
「お疲れ様です」
- 労いの気持ちを伝える
- 適切なタイミングで使う
「いかがでしょうか」
- 相手の意見を尊重する姿勢を示す
- 柔らかい印象を与える
シーン別:適切な言葉遣い
ビジネスメールでの言葉遣い
件名
- 簡潔で内容がわかるものにする
- 【重要】【至急】などは本当に必要な時だけ使う
書き出し
- 「お世話になっております」(社外)
- 「お疲れ様です」(社内)
締めの言葉
- 「何卒よろしくお願いいたします」
- 「ご確認のほど、よろしくお願いいたします」
電話での言葉遣い
電話を受けるとき
- 「お電話ありがとうございます。株式会社〇〇でございます」
- 相手の名前を復唱して確認する
電話をかけるとき
- 「お世話になっております。株式会社〇〇の〇〇と申します」
- 「今、お時間よろしいでしょうか」
会議での言葉遣い
意見を述べるとき
- 「私の考えでは、〜」
- 「一つの案として、〜」
反対意見を述べるとき
- 「別の視点から見ると、〜」
- 「〜という課題もあるかと思いますが、いかがでしょうか」
言葉遣いを改善する5つのステップ
ステップ1:自分の言葉遣いを録音して聞く
日常会話やプレゼンテーションを録音して、客観的に自分の言葉遣いをチェックしましょう。
チェックポイント
- 否定的な言葉を使っていないか
- 口癖になっている言葉はないか
- 敬語は適切か
ステップ2:一つずつ改善する
すべてを一度に直そうとせず、最も気になる言葉遣いから一つずつ改善していきましょう。
具体的な方法
- 今週は「でも」を言わない
- 今月は「すみません」の代わりに「ありがとうございます」を使う
ステップ3:言い換えリストを作る
避けるべき言葉とその言い換え表現をリスト化して、目につく場所に貼っておきます。
ステップ4:フィードバックをもらう
信頼できる同僚や上司に、自分の言葉遣いについてフィードバックをもらいましょう。
お願いする際の言い方 「コミュニケーション力を向上させたいので、私の言葉遣いで気になることがあれば教えていただけますか」
ステップ5:継続的に意識する
言葉遣いの改善は一朝一夕にはいきません。日々意識して練習を続けることが大切です。
注意すべき時代の変化
言葉の意味や受け取り方の変化
時代とともに、言葉の意味や受け取り方は変化します。
例えば
- かつては許容されていた表現が、今ではハラスメントと見なされる
- 世代によって言葉の受け取り方が異なる
- 業界や組織によって適切な表現が違う
多様性への配慮
現代のコミュニケーションでは、多様性への配慮も重要です。
配慮すべきポイント
- ジェンダーに関する表現
- 年齢に関する表現
- 出身地や国籍に関する表現
- 身体的特徴に関する表現
まとめ
コミュニケーションにおける言葉遣いは、人間関係や仕事の成果に大きな影響を与えます。約3000人を対象としたアンケートでは、99.5%の人が仕事の場面においてマナーは必要だと回答し、81.9%の人が他人のマナー違反が気になると答えています。
本記事のポイント
- 避けるべき言葉遣い
- 否定的な言葉(でも、だって、は?)
- 不適切な敬語(二重敬語、身内への敬語)
- ネガティブな言葉(無理、忙しい、疲れた)
- 曖昧な表現(多分、一応)
- 過度な自己卑下
- 好印象を与える言葉
- 感謝の言葉(ありがとうございます)
- 肯定的な言葉(いいですね、素晴らしい)
- 前向きな言葉(やってみます、挑戦します)
- 配慮を示す言葉(お疲れ様です、いかがでしょうか)
- 改善のステップ
- 自分の言葉遣いを客観的に把握する
- 一つずつ改善していく
- 継続的に意識し続ける
言葉遣いは、その人の人格や教養を表すものでもあります。日々の会話の中で意識的に適切な言葉を選ぶことで、より良い人間関係を築き、ビジネスでの成功にもつながっていきます。

