「滑舌」とは、文字通り言葉を滑らかに発声するための舌や口の動きのことです。プレゼンテーションや面接など大事な場面で言葉につまずいたり、日常会話で「え?何て言ったの?」と聞き返されたりした経験はありませんか?
実は滑舌の良し悪しには科学的な理由があり、トレーニングによって改善できることがわかっています。今回は滑舌が良い人と悪い人の差について、科学的根拠をもとに解説します。
滑舌が悪くなる主な原因
舌の筋力低下
舌は主に筋肉でできており、その重さは約200g程度あります。
この筋肉が衰えると、舌を自分の意思通りに素早く正確に動かすことができなくなります。 筋肉が衰えると重さに耐えきれず、喉の奥に舌が垂れ下がった状態(低位舌)になることもあります。
舌は内舌筋(固有舌筋群)と外舌筋群という2種類の筋群で構成されています。内舌筋は舌の形を変える筋肉で、外舌筋は舌全体の位置を変える筋肉です。 これらの筋肉がうまく連携して動くことで、滑らかな発音が可能になるのです。
特に「た行」「な行」「ら行」は舌の影響を大きく受け、これらの発音がしづらい場合は舌の筋力低下が原因かもしれません。舌の筋肉は年齢とともに衰えるほか、柔らかいものばかり食べていると筋力が低下します。
口周りの表情筋の弱さ
表情筋も滑舌に大きく影響します。口の周りには何種類もの表情筋があり、これらの筋肉が発達していなかったり硬かったりすると、きれいな発音をするための口の動きが鈍くなり、滑舌が悪くなる原因になります。
滑舌が良い人は舌の筋肉と口周りの筋肉(表情筋・口輪筋)をしっかり使えている傾向があります。一方で、舌の筋力が弱かったり、舌の筋肉を使いこなせていない方は「か行・が行・さ行・ざ行・た行・だ行・な行・ら行」の音が不明瞭になるので、聞き取りにくい声になってしまいます。
姿勢の問題
実は滑舌の良し悪しには姿勢も関係しています。姿勢が悪いと舌の根本の筋肉が動かしにくく、口も開けにくい状態になり、良い滑舌に必要な動きができなくなってしまうのです。
姿勢が悪いと、呼吸の状態にも影響が出ます。人が発声するときは、息を吸ったり吐いたりします。深い呼吸ができないと、声が小さくなったり発声が不安定になったりと、滑舌が悪くなってしまうでしょう。
浅い呼吸
呼吸が浅いと口周りの筋肉や舌の筋肉を動かすための力が入りにくくなります。特に普段から口呼吸をしている人は呼吸が浅くなりやすいようです。
滑舌を良くする方法として腹式呼吸があります。腹式呼吸とは、息を吸ったときにお腹をふくらませて横隔膜を動かす呼吸法です。腹式呼吸を行うことで空気を多く取り込むことができるため、声の大きさが一定になりやすく声の聞き取りにくさを改善できる効果が期待されます。
歯並びや口腔構造の問題
全体的に歯の並びがガタガタしている、出っ歯、下顎が受け口のように前に出ている、噛んだ時に上下の歯の間に隙間ができるなど、滑舌にお悩みの方はこうした歯並びが思い当たる方も多いのではないでしょうか。歯並びによって舌や唇の動きが制限される、歯の隙間から空気が漏れて音にならないといったことから、滑舌が悪くなってしまうのです。
低位舌(ていいぜつ)とは、舌が口腔内の正常な位置よりも低い場所にあることをいいます。正常な舌の位置とは、舌先端が上顎の前歯の裏側から少し奥に位置し、舌の表面が口蓋(こうがい:口の中の天井に当たる部分)に触れている状態になります。それに対して、低位舌は、舌に力が入っていないために舌全体が盛り上がっておらず、舌と口蓋の間にすき間ができています。
滑舌が良い人の特徴
舌と口周りの筋肉をしっかり使える
表情が豊かな人ほど滑舌が良く、表情に乏しい人ほど滑舌が悪い傾向にあります。普段からよく喋ったり、よく笑ったり、表情を豊かにする事で顔の筋肉が活発に動き、滑舌の改善につながります。
発音の良し悪しは、「口の形と舌の位置」で決まります。母音「あ・い・う・え・お」を発音するだけでも、口の形も舌の位置も目まぐるしく変わっています。
正しい発声と呼吸
滑舌を改善するためには、3つのポイントがあります。「正しい腹式呼吸をする」「言葉をしっかり発音する」「舌と顔の筋肉を鍛える」です。深い呼吸ができていないと、言葉もうまく発音できません。はっきりした音を発音できるように、呼吸を見直すことが大切です。
適切な速さで話す
緊張しやすい性格の人や、せっかちで常に急いでいる人は言葉も早口になりがちです。ほかの人よりも早く喋ろうとすると、滑舌は悪くなります。自分の話しているスピードに舌や口がついていかず、言葉が不明瞭になってしまうのです。
早口になると、言い間違える回数・省略してしまう音が増えるため、滑舌が悪くなります。緊張しているようにも見られるので、早口はデメリットが多いです。滑舌が悪いまま早口になると、相手は内容よりも話し方が気になってしまいます。
科学的に効果的な滑舌改善トレーニング
舌のトレーニング
舌の筋力トレーニングは、比較的簡単です。舌を突き出して大きく回すだけでも、筋力は鍛えられます。時間の空いたときに試してみましょう。家でリラックスしているときにも、舌を動かすだけなら気軽にできます。
低位舌の人におすすめの「舌の上げ下げ運動」として、天井を見るように顔を上に向け、あごを上に突き出し、舌を出して鼻につけるように引き上げる、次に舌を出してあごにつけるように引き下げる、という動きを5回ずつ続けるとよいでしょう。
らたなかさ体操
口回りの筋肉を動かしたら、舌の筋肉全体の動きをチェックします。この際に活用できる方法が、割り箸を1膳ずつ口の両端に軽く挟んで「ら・た・な・か・さ」と発声する「らたなかさ体操」です。「らたなかさ」と言う時は舌の先、真ん中、奥と、動かす筋肉の場所が違うので、このトレーニングで舌の筋肉全体を鍛えることができます。
コツは、舌を歯の裏側にそっと触れる感じにすることです。らたなかさ体操とも呼ばれる方法で、らたなかさと発音するときはアクセントをつけて発音しましょう。また、慣れてきたら、らた、らな、らか、らさのように2つの音を合わせて発音するのもコツです。らたなかさ体操を行うことで、舌の根元から下の先端まで筋肉をまんべんなく使うことになります。滑舌対策として欠かせない舌の筋肉を鍛えるためにも有効です。
母音発声
滑舌の状態をチェックする際は口の動きを意識しながら母音を「ア・エ・イ・オ・ウ」と一音ずつ発する方法や「ラ」と「ヌ」を使って「ラヌラヌラヌラヌ」と発声する方法がおすすめです。日本語は母音をしっかり発することで会話が相手に伝わりやすくなると言われているので、母音を発する時に口が動かしにくい方は滑舌の改善が必要だと言えるでしょう。
カエルの鳴きまね
舌の動きを滑らかにする「カエルの鳴きまね」トレーニングもとても簡単で、発声するだけで舌が鍛えられます。
カエルの鳴き声をまねて、「ケロケロケロケロ ケロケロカエル」と2秒かけて発声し、5回繰り返します。
このトレーニングのポイントは、カ行の「ケ」と、ラ行の「ロ」を交互に何度も発音することです。
ラ行を発音するとき、口の中で舌先は前の方にありますが、反対にカ行を発音するとき、舌は奥の方に引っ込みます。つまり、「ケロケロケロ……」と発音すると、舌を素早く前後させることになりますが、これが舌の動きを滑らかにする絶好のトレーニングなのです。
腹式呼吸
腹式呼吸の具体的なやり方は、背筋を伸ばしてゆっくりと息を吸い込むことから始めます。腹式呼吸を行うときは1日5回くらいを目安にして、慣れてきたら10回~20回行いましょう。
すぐに効果が出るものではないため、体に負担がない範囲で続けることが重要です。また、腹式呼吸をするときは口ではなく鼻での呼吸を意識し、肩や胸が動かないように意識しましょう。筋肉が緊張しないようにリラックスすることも大切です。
医学的な観点からの滑舌の問題
年齢を重ねるとともに、口の機能はだんだん衰えてきますが、それによって会話にも影響が出てきます。最近、滑舌が悪くなってきた、しゃべりにくいと思うことがあるようならば、口腔機能が低下している可能性もあります。加齢によって滑舌が悪くなる原因としては、唾液が減少することで口の中の潤いが減り、舌が動かしにくくなることや、口の周りや舌の筋力の低下などがあげられます。
舌の筋力の衰えは、「さしすせそ」の発音から読み取ることができます。
口を閉じて小さな声で話している時には「さしすせそ」と発音できていても、筋力が衰えている場合、大きく口を開けて話すと、「しゃしぃしゅしぇしょ」という発音になりがちです。
まとめ:滑舌改善のために今日からできること
滑舌の良し悪しは先天的なものではなく、主に舌や口周りの筋肉の使い方、姿勢、呼吸法など、日常的な習慣に関係していることがわかりました。良い滑舌を手に入れるためには、以下のポイントを意識しましょう。
- 舌と口周りの筋肉を日常的にトレーニングする
- 正しい姿勢と腹式呼吸を心がける
- 適切な速さで話す練習をする
- 「らたなかさ体操」や「カエルの鳴きまね」などの効果的なトレーニングを継続する
スポーツと同じように、滑舌はトレーニング次第で必ず上達します。そのためには日々の滑舌練習が何より大切になりますので、コツコツと頑張っていきましょう。
滑舌の改善は、ビジネスシーンでのプレゼンテーション力向上だけでなく、日常会話をスムーズにし、コミュニケーションの質を高めるためにも重要です。ぜひ今日から、SPEAKLYでお伝えした効果的なトレーニングを始めてみてください。
「伝わる話し方」の第一歩は、聞き取りやすい発音から。滑舌を良くすることで、あなたの言葉はより力強く、より魅力的になるでしょう。
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